パスタを重曹で茹でると、もちもちの中華麺になります。ラーメンが手に入らない海外では必須の裏ワザです。その仕組みや代用方法を考えました。
どうして重曹で茹でるの?
まず、どうしてパスタを重曹で茹でるだけで、中華麺の食感になるのでしょうか?
中華麺のもちもちはかん水のおかげ
うどん、パスタ、中華麺の違いは前の記事で確認しました。中華麺を作るときは塩基性のかん水をつかいます。これが、中華麺のグルテンに働き、もちもちの食感を生み出すのです。
後からもちもちにする
一方、パスタを作るときは、かん水は使いません。確かにパスタもにもちもちとしていますが、中華麺よりも歯切れがよく、弾力が少なめです。
そこで、パスタをゆでるときに塩基性にしよう、というのがこの重曹パスタの発想です。
つまり、ラーメンでは麺を作るときに起きている塩基とグルテンの反応を、ゆでるときに起こそうということです。その結果、中華麺のような食感と香りになるのです。
重曹の反応
重曹は、炭酸水素ナトリウムという名前の物質です。化学式はNaHCO3で、加熱すると二酸化炭素を放出して、炭酸ナトリウム(Na2CO3)になります。
2NaHCO3 → Na2CO3 + CO2
炭酸ナトリウムは塩基性の物質です。つまり、水に溶かすと強いアルカリ性(塩基性)を示します。これを利用して、重曹を入れたお湯でパスタを茹でて、ラーメンに変身させるというわけです。
ベーキングパウダーで代用できる?
ここで一つ疑問が沸きます。重曹と同じく、ふくらし粉として使われるベーキングパウダー。もしも重曹がない場合は、ベーキングパウダーで代用できるのでしょうか。
重曹とベーキングパウダーの違い
まずは、重曹とベーキングパウダーの成分を比較しましょう。
タンサン(重曹)
炭酸水素ナトリウム
https://www.products.kyoritsu-foods.co.jp/detail/?page=1&category=&id=262
ベーキングパウダーアルミフリー
(成分重量%)酸性ピロリン酸ナトリウム30.0%、炭酸水素ナトリウム25.0%、d-酒石酸水素カリウム10.0%、ステアリン酸カルシウム1.0%、コーンスターチ(遺伝子組換えでない)34.0%
https://www.products.kyoritsu-foods.co.jp/detail/?page=1&id=280
重曹は100%炭酸水素ナトリウムです。一方、ベーキングパウダーのうち、炭酸ナトリウムは25%です。
それなら、重曹の4倍入れればいいのかというと、実はそうでもありません。
水に溶かした時の違い
のレシピにあるように、お湯1Lに対して重曹大さじ1、ベーキングパウダー大さじ4をそれぞれ加えました。そして、pH試験紙を使い、塩基性の度合いを調べました。
写真ではわかりにくいですが、重曹の方がpH9程度なのに対して、ベーキングパウダーはpH8と9の間です。つまり、重曹の方がpHが大きく、塩基性の度合いが強いことが分かります。
ベーキングパウダーにはいろいろ含まれる
これは、ベーキングパウダーは、炭酸水素ナトリウム以外にも様々な物質が含まれているためです。
例えば、酒石酸水素ナトリウム。これは、pHを調整する役割で加えられています。重曹だけでは極端に塩基性になりすぎてしまうので、pH調整剤が加えられています。
つまり、重曹の量を合わせても、pHは同じにならないということです。
また、ベーキングパウダーにはでんぷんも含まれています。お湯にベーキングパウダーを入れると、重曹に比べてかなり粘りのある泡が噴き出してきます。つまり、吹きこぼれやすくなるのです。
代用できなくはない
それでは、重曹はベーキングパウダーで代用できるのでしょうか?
pHの違いはわずかですし、代用できなくはないでしょう。ただ、重曹の4倍量入れる必要があります。そして、ゆでるときは吹きこぼれやすいです。代用できなくはないけれど、あまりおすすめしません。
どれくらい茹でる?
さて、重曹パスタはどれくらい茹でればいいのでしょうか?
日本では、芯の少し残ったアルデンテのパスタが好まれます。しかし、重曹パスタの目的は、麺と炭酸ナトリウムを十分に反応させることです。
これを考えると、アルデンテより長い時間ゆでる必要があります。
また、パスタの種類によって茹で時間も様々です。
私は普段、8-10分茹でのスパゲッティーを13分茹でています。10分でしっかり茹だると考えると+3分です。ただ、もともと茹で時間が短いパスタもあるので、1.3倍、と考えておきます。
いろいろなパスタで実験
せっかくなので、いろいろなパスタを茹でてみました。
左から順に
- ブカティーニ…穴の開いたパスタ、袋の茹で時間6分
- フィットチーネ…平たいパスタ、袋の茹で時間10分
- カッペリーニ…細いパスタ、袋の茹で時間4分
重曹大さじ1/お湯1Lの割合でそれぞれ茹でながら麺の歯ごたえを確認し、それぞれ食べごろの時間をはかりました。
- ブカティーニ…標準6分→重曹で8.5分、約1.4倍
- フィットチーネ…標準10分→重曹で14分、約1.4倍
- カッペリーニ…標準4分→重曹で5.5分、約1.4倍弱
このメーカーのパスタは、お湯で表記通りの時間ゆでた時も硬めに仕上がる傾向があることを考えると、茹で時間は1.3-1.4倍、と言えそうです。
おすすめはフィットチーネ
普段はスパゲッティーを使っています。スパゲッティーは、冷やし中華など元々太麺を使う料理に合います。
ダントツでもちもちのフィットチーネ
今回茹でたパスタの中で、ダントツにおいしかったのはフィットチーネです。もともと弾力がある麺がさらにもちもちになり、平打ちの中華麺のようになりました。野菜などと炒めると美味しそうです。
カッペリーニはわかりにくい
見た目は細麺そっくりで美味しそうなカッペリーニですが、もともとの麺が細いからか、思ったほどもちもち感が出ませんでした。それでも、パスタとは異なる食感で美味しかったです。
ブカティーニは苦味が残りやすい
ブカティーニを使う場合は注意が必要です。穴の内側がに重曹の溶けたお湯が残っているものがあり、苦味を感じました。水にしばらくつけたりして、かなりしっかり洗う必要があります。
食感はもちもちになり、中華麺にはない形状なので面白い歯ごたえでした。
しっかり洗う必要あり
ブカティーニが苦かったのは、穴の中に炭酸ナトリウムの溶けたゆで汁が残っていたためです。ほかのパスタは、苦味もなく美味しく食べられました。
大切なのは「ぬめりをとる」ということです。これは、石鹸で手を洗ったとにしっかり流すのと似ています。ゆであがった麺を、水道水で十分に洗い、ぬめりをとってあげます。温かい麺にする場合は、お湯で洗って大丈夫です。味見をして、苦味を感じなければOKです。
レシピ
パスタを重曹で茹でて、もちもちの中華麺にする裏ワザ

- お湯 1 L
- 重曹 1 大さじ
- パスタ 100 g
- 鍋
- 計量スプーン
- 電子はかり
- お湯を沸かす。
- 重曹を入れる。最初激しく泡が出るが、その後落ち着く。
- パスタを入れて、表記時間の1.3倍の時間ゆでる。
- 茹でている間に、ゆで汁の色、香りを確認する。
- ゆで汁が黄色くなり、ラーメン屋さんのにおいがしてきたら成功。
- お湯を切る。
- ラーメンなど、温かいスープに入れる場合は、お湯で洗い軽くぬめりをとる。味見をして、麺が苦くないことを確認する。
- 冷やし中華など、冷たい麺を食べる場合は、水で十分に洗いしっかりぬめりをとる。味見をして、麺が苦くないことを確認する。